写真だけで生きるのは可能?ドキュメンタリー写真家・写真作家の収入構造

写真だけで生きるのは可能?ドキュメンタリー写真家・写真作家の収入構造|杉山宣嗣

ドキュメンタリー写真家・写真作家の主な収入源

― 写真だけで生きている人は、何で食べているのか ―

ドキュメンタリー写真家や写真作家について、
外から見ていると、正直よくわからないことがあります。

  • 何年も同じテーマを撮り続けている
  • 長期で海外に滞在している
  • 商業広告は撮っていないように見える

それなのに、
どうやって生活しているのかが見えてこない。

写真は素晴らしい。
活動も継続している。
でも、「収入の仕組み」はほとんど語られません。

なぜなのか。
そして実際には、どうやって生計を立てているのか。


写真が「直接の収入」になるケースは、実は少ない

まず大前提として、
ドキュメンタリー写真は、撮った時点ではほぼお金になりません。

広告写真のように、

  • 撮影=ギャラ
  • 納品=報酬確定

という構造ではないからです。

多くの場合は、

撮影 → 発表 → 評価 → 次の仕事につながる

という、時間差のあるモデルで成り立っています。


主な収入源 ①

新聞社・通信社・雑誌への写真提供

もっとも現実的で、想像しやすい収入源が、
新聞社・通信社・雑誌への写真提供です。

形としては主に以下の3つ。

  • 記事+写真の買い取り
  • 写真のみの使用料(掲載料)
  • 長期的な契約(レギュラー・準専属)

ただし現実には、

  • 1本あたりの金額は高くない
  • 継続掲載の保証はない

というケースがほとんど。

「これ一本で生活する」というより、
収入の一部を構成する柱のひとつという位置づけになります。


主な収入源 ②

写真集・作品集

印税は低く、収入とは呼びにくい

結論から言うと、
日本の写真集は、ほぼ生活の足しになりません。

たとえば、

  • 定価:5,000円
  • 印税:7%
  • 発行部数:2,000部

だとすると、
収入は約70万円(税前)。

制作に数年かかることを考えれば、
これを「収入」と呼ぶのはかなり厳しい数字です。

それでも写真集が作られるのは、

  • キャリアの証明になる
  • 展覧会や仕事につながる
  • 国際的な評価の入口になる

といった、間接的な価値が非常に大きいからです。

写真集は、
稼ぐためのものというより
**「信用を可視化する装置」**に近い存在です。


主な収入源 ③

写真展・展示活動

やれば赤字になりやすい

写真展そのものが、
直接的な収入になるケースは多くありません。

実際には、

  • プリント代
  • 額装費
  • 会場費
  • 広報・DM
  • 在廊の交通費

など、出費の方がかさむことも珍しくありません。

入場料は無料が基本。
プリントも簡単には売れない。

そのため、

写真展=収入を得る場

ではなく、

写真展=名刺代わりの場

という位置づけになります。

それでも続けられるのは、

  • 編集者やキュレーターの目に触れる
  • 次の仕事につながる
  • 実績として積み上がる

といった、
将来に回収される前提の投資だからです。


主な収入源 ④

教育・講演・執筆

機会は少なく、金額も高くない

多くのドキュメンタリー写真家・写真作家は、

  • 大学・専門学校での非常勤講師
  • ワークショップ
  • トークイベント
  • エッセイや原稿執筆

なども組み合わせて生計を立てています。

ただし日本では、

  • 定期的に呼ばれる機会は少ない
  • 写真だけで講演依頼が来るケースは限られる

のが現実です。

カメラメーカー主催のイベントでも、

  • 1回:数万円〜10万円前後
  • 準備や拘束時間を考えると高給とは言えない

という水準が一般的。

これだけで生活できる人は多くありませんが、
複数を組み合わせることで、生活のベースにしている人は確実に存在します。


それでも、なぜ続けられるのか

ここまで見ると、

  • どれも単体では弱い
  • 安定している収入は少ない

と感じるかもしれません。

しかし実際には、

小さな収入を
長期的に
複数レイヤーで積み重ねる

という形で、
ドキュメンタリー写真家や写真作家は生きています。

派手さはない。
即効性もない。
それでも、続けている人は確実に存在する。


補足:助成金・フェローシップ・グラントという「別ルート」

日本では、
助成金やフェローシップで生活している写真家の話をほとんど聞きません。

その理由として、

  • 写真特化の制度が少ない
  • 展覧会前提の助成が多い
  • 生活費までカバーするものは稀

といった現実があります。

そのため、日本国内で活動する限り、
主要な収入源にはなりにくいのが実情です。

一方で、海外を拠点に活動する日本人写真家の中には、

  • 長期取材を前提としたグラント
  • 生活費・渡航費込みのフェローシップ

を活用している人もいます。

ただしこれは、
誰にとっても開かれた道というより、
特定の条件とスキルを満たした人だけが使える別ルートと言えるでしょう。


ドキュメンタリー写真家「だけ」の話ではない

ここまで見てきた収入構造は、
ドキュメンタリー写真家に限った話ではありません。

いわゆる「写真作家」と呼ばれる人たち、つまり、

  • 明確なクライアントワークを主軸にしない
  • 長期的なテーマやリサーチを重視する
  • 作品発表を活動の中心に置く

タイプの写真家にも、ほぼそのまま当てはまります。

違いがあるとすれば、
**「何を撮っているか」ではなく「どう見せているか」**の部分です。


「写真で生きる」という言葉の正体

「写真で生きる」という言葉は、しばしば、

  • 写真だけで食べている
  • 他の仕事はしていない

という意味で受け取られがちです。

けれど実際には、

  • 写真を中心に据えて
  • 複数の仕事を組み合わせ
  • 長期的に続けている

という状態を指すことがほとんどです。

ドキュメンタリー写真家も、写真作家も、
この点ではほとんど同じ場所に立っています。


見方を変えると、違う景色が見える

もし、

写真だけで稼げていない=失敗

と考えてしまうと、
この世界はかなり厳しく見えます。

でも、

表現を軸に
現実と折り合いをつけながら
長く続けている人たちがいる

と捉え直すと、見え方は少し変わります。

これは、夢を下げる話ではありません。
夢を現実に接続するための話です。