SNSで変わるモデルの仕事 02

SNSで変わるモデルの仕事02 | 杉山宣嗣

個人撮影市場は、新しい写真文化を生み出した

ここ数年で特に大きく広がったのが、個人カメラマンと個人モデルによる撮影市場です。

SNSで知り合い、お互いの作品を見て撮影を申し込む。

撮影会に参加してポートレートを撮る。

あるいはSNSで「撮影していただける方を募集します」「作品撮りモデル募集」といった投稿を見かけることも珍しくありません。

以前であれば、モデルが撮影される機会の多くは企業や出版社、広告制作会社などが関わる仕事でした。

しかし現在は、企業を介さなくても、個人同士が直接つながり、作品づくりができる時代です。

これは写真文化という視点で見れば、とても大きな変化です。

撮影を学びたいカメラマンは人物撮影の経験を積むことができる。

モデルも、表現力やポージングを磨く機会が増えました。

以前なら出会うことのなかった人同士が、一枚の写真をきっかけにつながる。

これはSNSが生み出した、新しい写真文化と言えるでしょう。

「撮影会モデル」と「個人モデル」は同じではない

一方で、一般の人にはあまり知られていませんが、「個人撮影」と一言で言っても、その形態はさまざまです。

例えば撮影会モデルは、運営会社が間に入り、料金や時間、撮影ルールを定めていることが多くあります。

もちろん運営方法には違いがありますが、一定のルールの中で撮影が行われるため、モデルもカメラマンも比較的安心して参加できます。

一方、SNSで知り合った個人同士が直接撮影する場合はどうでしょう。

そこには運営会社も、事務所もありません。

撮影場所も、撮影時間も、写真の使い方も、すべて当事者同士で決めることになります。

自由度が高い反面、その自由さがリスクにもつながります。

だから「個人撮影=危険」ということではありません。

大切なのは、間に第三者が存在しないという構造を理解しておくことです。

個人撮影市場が抱える”構造的な危うさ”

SNSでは、「作品撮りです」「ポートレートです」という言葉だけで撮影が決まることも少なくありません。

しかし、その”作品”とは何を意味するのでしょうか。

SNS投稿だけなのか。

写真展なのか。

コンテストなのか。

商業利用まで含まれるのか。

あるいは生成AIの学習データとして使われる可能性はないのか。

事前に話し合われないまま撮影が始まるケースもあります。

また、

「少しだけイメージを変えたい」

「もう少し肌を見せてもらえませんか」

「時間を延長できますか」

このような要求が撮影当日に追加されることもあります。

撮影データの無断使用。

無断での販売。

過度なレタッチ。

肖像権をめぐるトラブル。

ハラスメント。

密室での撮影。

こうした話は決して珍しいものではありません。

もちろん、誠実なカメラマンが圧倒的多数です。

モデル側も真剣に活動している人がほとんどです。

だからこそ問題なのは、「悪意のある人が少数でも入り込みやすい構造」が存在することなのです。

肩書きでは、人は判断できない時代

SNSでは誰でも「モデル」と書けます。

同じように、誰でも「フォトグラファー」と書くことができます。

ここが昔との大きな違いです。

以前は事務所や出版社、広告代理店などが、一つの信用を担保していました。

現在は、その肩書きだけでは何も分かりません。

本当に企業案件を手掛けている人なのか。

趣味で活動している人なのか。

これから始めようとしている人なのか。

肩書きからは判断できないのです。

これはモデルだけではありません。

カメラマンもまったく同じです。

「プロカメラマン」という肩書きを掲げていても、その活動内容は人によってまったく異なります。

反対に、プロを名乗っていなくても、高い技術と豊富な経験を持ち、多くの依頼を受けている人もいます。

SNSは活動を始めやすくした一方で、肩書きの意味を曖昧にしました。

だからこそ、見るべきなのは肩書きではなく、その人が積み重ねてきた活動そのものです。

信頼は作品だけでは生まれない

写真が上手い。

モデルとして魅力がある。

もちろん、それは大切です。

しかし、個人同士で仕事や作品づくりをする時代になった今、それ以上に重要なのが信頼です。

撮影内容を事前に説明する。

利用目的を明確にする。

撮影データの扱いを確認する。

約束した時間を守る。

相手が不安に思うことを丁寧に説明する。

こうした当たり前の積み重ねが、次の仕事や紹介につながっていきます。

モデルも同じです。

連絡がきちんと取れる。

約束を守る。

撮影に真摯に向き合う。

こうした姿勢が評価される時代です。

SNSでは華やかな写真ばかりが目に入りますが、本当に評価される人は、写真には写らない部分で信頼を積み重ねています。

モデルもカメラマンも、「プロ」の意味が変わった

SNSの普及によって、モデルという仕事はなくなったわけではありません。

カメラマンという仕事も同じです。

なくなったのは、「プロ」という言葉を判断する昔ながらの基準なのかもしれません。

以前は、事務所に所属していることや、企業から仕事を受けていることが、一つの基準でした。

現在は、事務所に所属していなくても、多くの企業案件を手掛ける人がいます。

個人向けの仕事だけで十分な実績を築いている人もいます。

つまり、「所属しているからプロ」「所属していないからアマチュア」という考え方では、現在のモデル市場もカメラマン市場も説明できなくなっています。

プロかどうかを決めるのは肩書きではありません。

仕事として継続していること。

責任を持って活動していること。

そして何より、多くの人から信頼されていることです。

まとめ

SNSは、モデルという仕事の可能性を大きく広げました。

それはカメラマンもまったく同じです。

企業から依頼される世界だけではなく、個人同士が直接つながる新しい市場が生まれたことで、これまでにはなかった働き方や表現の場が数多く誕生しました。

その一方で、肩書きだけでは相手を判断できない時代にもなりました。

「モデルです。」

「フォトグラファーです。」

その一言だけでは、その人がどんな活動をし、どれだけの経験を積み、どれだけ信頼されているのかは分かりません。

だからこそ、これからの時代に見るべきなのは肩書きではなく、その人が積み重ねてきた実績と信頼です。

モデルという仕事は、なくなったのではありません。

カメラマンと同様に、その市場が大きく広がり、「プロ」という言葉の意味そのものが変化したのです。

そして、この変化を正しく理解することが、これからモデルを目指す人にも、カメラマンとして活動する人にも、安心して新しい市場に関わるための第一歩になるのではないでしょうか。

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