キャノン

canon | 杉山宣嗣

canon | 杉山宣嗣

CPS NEWSより抜粋

昔、雑誌で見た海外フォトグラファーの不思議な写真。それがデジタルの原点でした。
コマーシャル、ファッション誌などの世界で、活躍する杉山宣嗣氏。杉山氏の目をデジタルフォトの世界に向けさせたのは、自身も活動していた海外のファッション界の不思議な写真だった。「10 年ぐらい前に海外のDCブランドの写真などで、どうやって撮ってるんだろう? という写真を見かけるようになりました。それがデジタル技術を使ってレタッチしたものだったんです。単なる合成とかプリントテクニックとも違う不思議な写真に見えました。」
自身の活動経験から海外にネットワークを持つ杉山氏は、ある時、海外のレタッチャーと知り合い、メールをやりとりしながら、テクニックを学んだという。「やりとりの中で海外、とりわけアメリカの状況が進んでいることがよくわかりました。遅かれ早かれ日本にもこの技術が入ってくると思い、自分でもやろうと決意したわけです。」
ネガやポジをスキャンし、デジタル処理をするところからはじまった杉山氏のデジタルフォト。もちろん、この時点はまだまだ過渡期だった。「プリントの手焼きでは一晩かけても思った通りに上がらなかったり、コストに見合わないこともよくありました。でもデジタル化することで、思い通りのものが出来ることがわかったんです。デジタルレタッチの利点は、“ 戻れる”、“止められる”、“ 同じものができる”の3つ。そして、自分が納得するまで“どこまででもできる”ことも挙げられます。暗室作業から比べると飛躍的に変わりましたね。ただ、この時点ではまだまだ問題が多かったのも事実です。」問題とは、スキャニングすることによる画質の劣化と「アシスタントがスキャニングデータのゴミ取りに時間をとられて現場に行けないこと(笑)」だったという。

人物撮影に必要な条件を満たしたEOS-1Ds Mark II。撮影の90%がデジタルに。
自らを「新しもの好き、流行好き」と称する杉山氏。しかし大半の撮影をデジタルカメラで行うようになったのはここ2年ぐらいのことだという。「デジタルバックタイプのカメラを使っていたのですが、これだとコスト的に見合わない撮影がありました。そうかといって、35ミリタイプでは満足できるカメラがなかったのですが、EOS-1Ds Mark II が出たことで状況が変わりましたね。」杉山氏の仕事の中心となる人物撮影に必要な解像度、スピードなどの条件を満たした35ミリタイプのデジタルカメラがEOS-1Ds Mark II だった。
「このカメラを使うことで、僕の仕事の90%はデジタルになりました。デジタルカメラで撮影して、PC上でセレクト、レタッチして、完成したデジタル画像として入稿する、というワークフローが確立したと言えますね。」デジタルへの移行には何のためらいもなかったという杉山氏。「新しい技術が登場したら、それが自分の仕事に活かせるかどうかを検証します。もちろんプロですから、コストパフォーマンスも考えて。それが使えるのであれば、積極的に使っていくのが僕のスタイルですね。デジタル技術は写真のレベルを上げ、表現方法を拡げていくものだと思っています。」
たとえば、前ページの黒人女性の写真では、肌の質感を整えているという。「人の肌は均一の質感や色ではないので、その部分を修正しています。キレイなものをよりキレイにという感じですね」と語る杉山氏。デジタル技術を積極的に使っているが、できる限り合成は避け、自然な仕上がりを目指しているのも事実だ。
本号の表紙では、著名なクリーチャー作家による実物大の造作を用い、合成は必要最小限に留めている。「この写真で合成したのは、造作の奥の部分と光、そして中の人物だけです。できる限りアナログ的な手法にすることで、自然な感じになるようにしています。“何でも後からデジタルで”というのは出来上がりに不自然さが残りますから。」安易なデジタル処理とは距離を置くのが杉山氏のスタンスだ。

人物撮影の最大の魅力は被写体とのコミュニケーション。
「会話が成立するもの、自分で動くものが好き」と語る杉山氏。被写体とのコミュニケーションが人物撮影の魅力であり、それこそが良い写真のために必要なことだという。「写真を撮るという行為は、自然じゃない状態です。撮られる側は、撮られることを意識しています。表情にしてもポーズにしても“やらせているもの” なのです。その中でより自然な表情や動きが欲しいと思ったら、良いカタチでコミュニケーションをとることが重要ですね。例えば、嫌そうな顔を撮るには、本当に嫌なことを言ったりもします。」また、風景写真でも人の存在を求めるという。「風景でも点でもいいから人物が入っているものじゃないとダメですね。人のいた痕跡でもいい。」
人物撮影やそのためのコミュニケーションの前に“人が好き”ということが窺われる話だ。人の表情、雰囲気、質感。その場の空気までも思い通りのトーンに変えていく。デジタル技術の可能性とともに杉山氏の仕事の幅と奥行きはさらに拡がっていく。